目次
1. 【院外CPRの救命連鎖】
2. 【PCASの病態】
3. 【PCASの予後予測:ROSCまでの情報】
4. 【PCASの予後予測:身体所見】
5. 【PCASの予後予測:血液検査と画像検査】
6. 【体温管理療法の適応と手法】
7. 【低体温療法の合併症】
8. 【ROSC後のCAG/PCI】
9. 【ROSC後の薬物治療】
10. 【ROSC後のてんかん・ミオクローヌス管理】
その他の巻についてもこちらをご覧ください↓
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【1.院外CPRの救命連鎖】
[救命の連鎖]
・1960年代に現在の標準的なCPRが普及していったが、その後の生存率は極めて不良であり、さらなる転記改善には社会全体を巻き込んだアプローチが必要であると考えられた。
・1974年にAHAより、ACLSを含んだ、「4つの救命の連鎖」という概念が提唱された。
・現在においては、4つの連鎖に「心拍再開後の集中治療」を含めた5つの連鎖により、心肺停止患者の救命を行う。
第一の鎖:早期通報
・救急コールシステムを整備することにより実現される
第二の鎖:早期CPR
・バイスタンダーCPR教育
・司令員による電話での胸骨圧迫指導
・胸骨圧迫のみのCPR などにより実現される
第三の鎖:早期除細動
・一般市民による除細動教育
・公的施設におけるAEDの配置整備 などにより実現される。
第四の鎖:早期ACLS
・病院前アドレナリン投与
・病院前高度気道管理 などにより実現される。
第五の鎖:心拍再開後の集中治療
・体温管理療法
・早期冠動脈造影
・治療施設の集約化 などにより実現される。
[①~②の鎖]
・近年はCPRのなかで呼吸の要素よりも循環の要素に重点が置かれてきており、CPR中の陽圧換気は冠循環に影響を及ぼすため最小限にすべきである。
・従来の胸骨圧迫と人工呼吸を交互に行うCPRは方法の煩雑さ、感染のリスクなどから一般市民が行うハードルを上げてしまっており、その結果、胸骨圧迫のみのCPRが提唱された。
・有効性においては、従来のCPRの劣らないことが示されている。
[③~④の鎖]
・一般市民による早期除細動が増えるにつれて、神経学的転帰良好な患者が増えた。
・院外ACLSにおいては、アドレナリン投与は長期的な転帰を改善せず、また気管挿管などの高度な気道管理はマスク換気と比較して転帰を悪化させていた。
[⑤の鎖]
・心停止患者の転帰はROSC(Return of Spontaneous Circulation)までの経過にほぼ依存すると考えられてきたが、体温管理や早期冠動脈評価/治療などの集学的な介入が転記改善に寄与することが明らかになってきた。
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【2.PCASの病態】
・ROSCが得られた生体には全身性にさまざまな生体反応が惹起される。
→低酸素脳症、心筋障害、虚血再灌流障害、副腎不全
・それらの反応をCPRの次の治療対象として捉えるべきである。
・それら反応の主な原因は、全身の虚血再灌流障害にあると考えられる。
・その病態は大まかに下記4つに分けて考えられる。
①脳損傷
②心筋障害
③全身性虚血再灌流反応
④心停止に至った原病で構成される。
[①心停止後脳損傷]
・最も重要なPCASの病態生理は脳損傷である。
・虚血後脳症の程度は虚血時間に依存する。
→CPRによって少量でも循環をか確保することが非常に重要となる。
・虚血後の脳に起きているのは
→嫌気性代謝による細胞内アシドーシスと高カルシウム
→炎症性細胞が集積し補体の活性化、フリーラジカル産生の増加
→BBB(Blood Brain Barrier)が破綻して、脳浮腫・頭蓋内圧亢進が起きる。
→全身性の高血糖と脳温上昇がROSC後脳損傷を悪化させる可能性がある。
→さらに、二次性の凝固亢進により微小循環障害が起きる
・上記のような現象が再灌流後数時間から生じる。
[②心停止後心筋障害]
・心筋障害により、収縮能・拡張能どちらもが障害される。
・基礎疾患に虚血がなくても心筋障害が発現する。
・神経学的障害が晩期の死亡に関連するのに対して、心機能障害は初期の死亡に関与する。
・ROSC直後には体内でカテコラミンが過剰となり、血行動態は保たれているか亢進していることが多い。
・ROSC後、およそ7時間経過後から血行動態が不安定となる例が多い。
・輸液、昇圧薬に反応がある例もあり、24時間程度が経過したころから心係数の改善を認めることがある。
・生存例では72時間以内に昇圧薬の投与終了が可能であった。
・逆に輸液、昇圧薬に反応がなく24時間以内に心係数の改善を認めない場合には、早期に多臓器不全にて死亡することが多い。
<治療>
a. 薬物・デバイス
・血行動態をいかにコントロールし、脳への循環を保つ(神経学的予後を改善させる)ことが重要である。
・発症直後の血圧は神経学的予後に関連が認められないが、2時間までの血圧を高く保つことが良い神経学的予後と関連する。
→適切な血行動態を保つために、輸液・昇圧(ノルアドレナリン±バソプレシン±アドレナリン)、ECMO(詳細はこちら)、IABP(詳細はこちら)の使用を考慮する。
→ROSC後は全身性のサイトカインにより敗血症類似の状態となっていることから、血圧維持に多くの輸液が必要とする場合がある。
(詳しくは【Sepsisと輸液療法】を参照)
→ただし、過度のカテコラミン投与や血圧上昇は脳浮腫や頭蓋内圧亢進につながるため、悪影響を及ぼす。
b. 血行再建
・STEMIに対しては血行再建が妥当であることは言うまでもない。
・PCIに低体温療法を加えることによって、有効性があるかもしれない
→その際には再灌流後ではなく、再灌流時に体温が35℃以下になっていることが求められる。
[③心停止後のAKI/Sepsis Like Syndrome]
・2013年のピッツバーグ大学の研究によると、ROSCを得てICUに入院した患者の37%に腎機能低下が認められた。
・これはSevere Sepsis & Septic ShockによるAKI発症頻度と同等である。
・病態としては
a. 心停止からROSCまでの虚血を原因とした腎障害
b. ROSC後のPCASとしての腎障害
に分けられ、なかでも②の機序の関連が深いと考えられている。
→適切な血行動態指標を用いた循環血漿量コントロールによりAKIの発症を制御しうる
(敗血症の輸液管理について、詳しくはこちら)
・PCASのsepsis like syndrome(全身性のサイトカインストームという点で同一の病態をとる)に対して、sepsisのEGDTやケアバンドルを導入することで、死亡率を減らせるかもしれない
→低体温療法(ROSC後4時間以内に体温32-34℃に冷却し24時間継続)、と循環動態維持(MAP>65mmHg、CVP>12mmHg、ScvO2>70%)によって構成される。
・サイトカイン除去を目的としたCRRTは、敗血症に対して有効性が示されていないが、PCAS患者においてもエビデンスはないものの、有効である可能性が期待されている。
・クレアチニンの値でみるAKIの発症と低酸素脳症の重症度(神経学的予後)には有意な関連性が示唆されている。
・現時点ではROSC後AKIに対して、低体温療法の有効性を示す研究はない。
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【3.PCASの予後予測:ROSCまでの情報】
・予後予測には、蘇生中止や体外循環などの高価な蘇生治療の適応を判断するための目安としての役割がある。
<院外心停止例>
[蘇生中止基準]
・Morrisonらの論文をもとにしたガイドラインでは
①搬送前におけるROSCなし
②搬送前における除細動実施なし
③救急隊による目撃なし
④バイスタンダーによる蘇生処置なし
⑤バイスタンダーによる目撃なし
の5項目すべてを満たした成人院外心停止に限り、蘇生中止可能となる。
・日本においては、明らかな死体所見のある場合を除いて、救急隊による蘇生中止が認められていないが、下記3点全て満たした場合に99%が1か月以内に死亡すると予測できることから、3項目陽性を基準とした蘇生中止が検討される。
①病院前ROSCなし
②バイスタンダーによる目撃なし
③除細動適応なし
[病院前因子と予後予測]
・後ろ向き観察研究による、1か月後神経学的転帰良好割合の予測が「目安として」提唱されている。
・項目としては、除細動適応の有無・年齢・目撃者の有無が含まれる。
[蘇生時間と予後予測]
・mRS 0~3(独歩可能レベル以上)で評価した、退院時機能良好群はその90%が蘇生時間16分以下であった。
・mRS4~5(歩行介助~寝たきり)は23分
・死亡例は29分であった。
→蘇生時間の一分単位の増加が機能的予後の悪化につながることを示唆している。
<院内心停止例>
[神経学的予後の予測ツール]
http://www.marianna-u.ac.jp/dbps_data/_material_/ikyoku/20170919Ishimura.pdf
・また退院時生存をアウトカムとした指標には入院時神経障害の有無別に2種類がある。
[蘇生時間と予後予測]
・蘇生時間の中央値が25分の病院群と16分の病院群では、25分の方で調整生存退院率が高かった
→蘇生努力時間を延長することで生存退院率を高められる可能性がある。
→特に初期心電図が除細動非適応例において蘇生時間の示す優位性が顕著であった。
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【4.PCASの予後予測:身体所見】
・主に、GCSによる意識レベルと脳幹反射の評価によって行う。
・鎮静鎮痛薬の蓄積や薬物動態の変化により、意識レベルや脳幹反射が実際よりも悪く評価され、結果的に早期の治療差し控えに至る例が存在している。
・ROSC後低体温療法中から復温後15時間以内の期間に専門医によって神経学的予後不良とされた28例中21%がCPC1または2の良好な転帰をたどったという例がある。
→薬物の影響を鑑みつつ、治療差し控えについては慎重に行う必要がある。
[GCS]
https://nurseful.jp/nursefulshikkanbetsu/emergencies/section_3_01_01/
・EVMのなかでも、とくにM(動作)が重要であり、痛み刺激を正確に与えるために、胸骨の上を強く拳で押すか、眼窩上の皮膚を強くつねる。
[脳幹反射]
http://www.jotnw.or.jp/studying/4-3.html
[GCS/脳幹反射予後予測の実際]
・明確な基準や予後予測ツールのようなものは現時点では存在しない。
・様々な研究が行われているが、統一の見解はない。
・以下に目安となる研究結果を列挙する。
①ROSC直後のGCS4点以上は3点以下と比べて転帰良好
(多施設後ろ向き n=194 Grossestreuer et al. 2013)
(低体温療法あり)
②ROSC24時間後の角膜反射なし、対光反射なし、GCS3点以下が転記不良と相関する
(システマチックレビュー n=1914 Booth et al. 2004)
(低体温療法なし)
③低体温療法後、鎮静薬終了日にGCS5点以上、鎮静薬終了3日目にGCS7点以上で神経学的予後良好が予想される。
(単施設前向き n=72 Schefold et al. 2009)
(低体温療法あり)
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【5.PCASの予後予測:血液検査と画像検査】
・身体所見と違い、鎮静・筋弛緩下でも評価可能な点が良い。
・しかし神経学的予後を予測する際に、特定のバイオマーカーであっても脳損傷以外の影響を受ける点が問題である。
[NSE]
・ニューロンの損傷により血中濃度が上昇する元も古典的なバイオマーカー
・カットオフ値30-50ng/mLとして、CPC 3-5の転帰不良を推定するのに特異度が90%以上であった。
(心停止後24時間以上経過してからの測定)
・心停止後1~3病日中の最高値が97ng/mLをカットオフ値とすると、特異度100%であった。
[アンモニア]
・アシドーシスに伴う赤血球からの放出、肝腎機能障害による排せつ低下が上昇の原因となる。
・病院到着時の血中アンモニア濃度で転帰不良(CPC 3-5)を予測する報告があり、170~192.5μg/dL以上でほぼ100%が予後不良となる。
・病着時のアンモニアが96μg/dL以上で転記不良のオッズ比が7.2倍になるという報告もある。
[乳酸]
・嫌気性糖代謝の過程で産生され、心停止時間に比例して血中乳酸値が上昇する。
・乳酸クリアランスは組織灌流改善の指標となり、敗血症や外傷診療において治療効果の指標となることが知られているが、PCASにおいて単独で予後予測の指標となるという質の高い報告はまだない。
[BNP]
・病着時のBNPが高いほど院内死亡率が高い。
・100pg/mL以上では96%が院内で死亡したという報告がある。
→神経学的予後を予測するかどうかはさておき、心損に対する損傷が生命予後を規定しうると考えらえた。
[クレアチニン]
・転帰良好(CPC 1-2)群ではクレアチニン推移は減少、転帰不良群(CPC 3-5)では増加していた。
・ROSC後24時間で減少が0.19mg/dL以下の場合には転帰不良のオッズ比が3.8倍であった。
[CRP、PCT]
・CRPと転帰予測について相関を示した報告はない。
・PCTについては、ROSC後12時間で転帰不良の陽性的中率が100%となる。(カットオフ値10ng/mLという報告と0.5ng/mLという報告あり)
[頭部画像]
・CT画像での転帰予測が有効であるとする報告は少ない。
・所見として転帰不良との相関が期待できるのは「皮髄境界の不明瞭化」「脳溝の不明瞭化」のみである。
→ROSC直後に撮影し、CPAの原因として脳出血やSAHを否定する。
→皮髄境界の不明瞭化があれば神経学的予後は不良と判断する。
→ただし、蘇生中止の根拠とはならない。
・MRIではADC≦0.59×10-3mm2/sec (%ADC≦75)をカットオフとして転帰不良を予測できるという報告がある。
→ROSC3-7日後に意識障害が遷延しているもののバイタルサインは安定している場合。長期予後の予測がつきにくい若年者に撮影を考慮。
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【6.体温管理療法の適応と手法】
TTM:Targeted Temperature Management
・体温管理療法とは、低体温療法と常温療法を合わせた概念。
・2013年に今までで一番の規模・質である報告がなされたが(Nielsen et.al)心原性院外心停止で意識のない生存者においては,33℃を目標とした低体温は,36℃を目標とした場合と比較して有益性は認められなかった。
・ただし安直に低体温療法を完全否定すべきではなく,低体温療法の恩恵を受けうる集団を特定し,評価する研究が必要である。
(参考:https://drmagician.exblog.jp/21359178/)
[TTMの適応]
・適応の大前提として
①成人
②心拍が再開していること
③血行動態が安定していること
④昏睡状態であること
が挙げられる。
・また、病着前の心拍再開までの情報による予後予測因子として大事なのは
①ROSCあり
②除細動適応あり
③目撃者あり
の3点であることから、逆にこれら全てがみられない場合には低体温療法も適応外になるものと考えられる。
・適応除外の基準は他に
①総虚血時間(心停止からROSCまで)が30分以上
②ROSC後240分経過
③非目撃での心静止
④既存の全身合併症(重症感染、多臓器不全、凝固障害)
などが挙げられる。
以下に具体的な適応について、記す。
a. 心電図初期波形と場所
①VF
・院外VFでROSC後昏睡、かつ大きな合併症がなければ低体温療法の適応となる。
②PEA/心静止
・PEA/心静止は心原性心停止である割合が低く、また脳虚血時間が長いことから低体温療法施行の推奨度がVFよりも低いと考えらえる。
・ROSCまでの時間が長時間でなければ低体温療法を考慮する。
・蘇生時間については前記のように
・mRS0~3(独歩可能レベル以上)で評価した、退院時機能良好群はその90%が蘇生時間16分以下であった。
・mRS4~5(歩行介助~寝たきり)は23分
・死亡例は29分であった。
→蘇生時間の一分単位の増加が機能的予後の悪化につながることを示唆している。
であることから、これらを参考にする。
b. ROSCまでの時間および蘇生の状況
・心停止からBLS開始までの時間<5-15分
・心停止からROSCまでの時間<60分
→25分以内は転帰良好が期待できる。
・ROSC後240分以上経過している例は低体温療法の適応外とする報告がある。
c. ROSC後の血行動態
・低体温療法を行ううえで、ROSC後にカテコラミン存在下でも良いのでsBP90mmHg以上は確保したい。
・MAPでいうと50~70mmHgが低体温療法の適応基準となっているプロトコルが多い。
→ただし、ROSC後のショックに対して積極的に低体温療法を行うことで心機能改善効果があるという報告があり、今後この制限が緩和される可能性がある。
・不安定な血行動態に対して、低体温・常温のどちらがより適切かという一定の見解はない。
・血行動態が著しく不安定な場合にECMOが導入され得るが、ECMOにより灌流血液の温度調節が容易に可能であり、これがすなわち体温管理療法の開始を意味する。
d. 身体所見
・低体温療法の開始前に身体所見で予後を予測することは難しく、ROSC直後のGCSスコアに関わらず、また対光反射消失があったとしても、ひとまず低体温療法を開始する。
・逆に、GCSが8点以上では、昏睡ということにならないので、適応とならない。
・低体温からの復温期に鎮静薬を中止した時点でM>5かM<5かが予後良好・不良を分ける。
e. 脳波
・神経学的評価単独では正確に予後を予測することはできない。
・脳波を加えることで予後評価がより正確になる。
・鎮静薬を中止すると、脳波に筋活動が混入するため、低体温療法中に持続脳波モニタリングを行う。
・malignant EEG pattern (burst suppression, flat or unreactive, generalized periodic epileptiform discharge)の存在は転帰不良と関係している。
[低体温療法の手法]
・低体温療法の開始の遅れが神経学的予後不良な転帰と関係しているという報告が多い。
・ROSC後に可及的早期に低体温療法の開始及び、低体温への到達が望まれる。
・ROSC前から低体温療法を開始し、梗塞巣の縮小やROSC率の上昇をもたらすことが期待されたが、PRINCESS trialにより否定された。
経鼻蒸発冷却法を用いたROSC前のプレホスピタル低体温療法は、標準治療と比べて90日後の神経学的予後を改善しなかった。
(Pre-Hospital Resuscitation Intra-Arrest Cooling Effectiveness Survival Study- The Princess Trial)
a. 冷却方法
①冷却輸液の急速投与と氷嚢
②水循環冷却ブランケット
③空気循環冷却ブランケット
④水循環冷却ジェルパッド
⑤血管内冷却装置
などが主な方法である。
b. 目標体温と維持期間
・32℃~34℃に設定されることが多い。
→[Nieelsen et al. 2013]では33℃を目標としている。
・維持期間は12-24時間とされるが一定の見解はない。
c. 鎮静・鎮痛・筋弛緩
・明確なエビデンスはないが、以下の観点から鎮静・鎮痛が必要であると考える。
→人工呼吸器との同調という観点
→シバリングを減らし、目標体温までの到達時間を短縮するという観点
→ただし、シバリングを防ぐ目的での筋弛緩薬の投与は最小にとどめ、痙攣を見逃す要因となってはならない。
・低体温療法中は薬物代謝が低下するため、モニタリングをしながら。
・鎮静、鎮痛について特別な薬物を使う必要はなく、PropofolやFentanylが使用可能である。
・具体的な鎮静・鎮痛の方法についてはこちらを参照
d. 復温方法
・復温中に電解質濃度や有効血漿量や代謝が急激に変化する可能性があることから、復温は徐々に行う。
・目安は0.25~0.5℃/hr
・能動的復温vs受動的復温や0.5℃以上vs0.5℃以下については有意差を示した報告は今のところない。
e. 復温後の管理
・ROSC後、低体温療法からの復温後の高体温については回避すべきである。
・復温後の著しい発熱(39℃程度)は神経学的予後不良と相関があった。
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【7.低体温療法の合併症】
・ROSC後の低体温療法中には生体内で様々な変化が起きるが、平常体温管理と比較して、有意な合併症増加に至らないというRCTの結果がある。
・低体温療法に伴う合併症が死亡率を上げるかどうかは現在のところはっきりとしておらず、死亡率に影響を及ぼしているのはPCASそのものであると考える方が妥当である。
①血行動態の変化
・心拍数の低下と、それを代償する収縮力の増加を認める。
→全体としては拍出量の低下と血管収縮に至る。
→心拍出量の低下よりも、代謝が低下することから、結果として酸素供給バランスは保たれる。
→無理に心拍数を上昇させなくてよい
・心拍数は30-50bpm程度まで低下し、心拍出量は25-40%低下し、末梢血管抵抗は10mmHg増加する。
・PCASの心筋障害にとっても心拍数の減少が酸素需要を減らし心筋保護的に働く可能性が考えられる。
・低体温により、末梢血管の収縮→灌流量増加→利尿ペプチド上昇と抗利尿ホルモン低下により利尿が誘発される。(寒冷利尿の機序)
→ボリューム減少、電解質異常、血液濃縮に注意する
②電解質異常
a. 尿への喪失
・低体温による尿細管障害と低体温寒冷地利尿の2つの機序による。
b. 細胞内シフト
・低体温の影響で電解質の細胞内シフトが起こる
・導入期に低カリウム、復温期に高カリウムが起こりやすい
・低マグネシウムによる脳障害、心筋障害、不整脈、低カリウム・低リンなどに注意。
③凝固異常
・血小板の機能的かつ量的損失により止血以上が起きる。
・PAI(plasminogen Activator Inhibitor)の機能低下によりプラスミノーゲン→プラスミンの抑制がなくなり、線溶系が亢進する(凝固異常をきたす)
http://www.3nai.jp/weblog/entry/24818.html
⑤免疫応答の低下
・低体温では炎症性サイトカインの産生および反応が抑制される。
→肺炎などの感染症を発症しやすい。
→もともと誤嚥している可能性に加え、鎮静・筋弛緩などにより気道クリアランスに問題が生じている。
・WBC、CRP、体温などの指標が当てにならず、診断は困難となる。
⑥高血糖
・生体の防御反応により高血糖が助長され、さらにインスリン分泌低下や糖代謝低下から高血糖を呈する。
・全身性の高血糖と脳温上昇がROSC後脳損傷を悪化させる可能性がある。
・インスリン投与による低カリウム、低リン血症に注意する。
⑦シバリング
・体温が36.5℃以下になると血管収縮による熱喪失抑制が始まる(25%程度の喪失を防げる)
・さらに体温が1℃低下すると、シバリングが起き、熱産生が通常の2,3倍となる。
→シバリングを減らし、目標体温までの到達時間を短縮するという観点から鎮静・筋弛緩を投与することがある。
→ただし、シバリングを防ぐ目的での筋弛緩薬の投与は最小にとどめ、痙攣を見逃す要因となってはならない。
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【8.ROSC後のCAG/PCI】
・院外心停止の原因として最も多いのは急性冠症候群であり、ROSC後早期のCAG/PCIが推奨される。
・院外心停止後ROSC症例に対してCAGを行ったところ、59~86%に有意狭窄を認め、36~56%に直接心停止の原因となったACSの存在が指摘されている。
・ST上昇をきたさない急性冠症候群もかなり存在している。
[心原性心停止の診断マーカー]
①トロポニン
・非心原性心停止のROSC後や腎機能障害でも上昇することや、陽性となるのにACS発症から2-3時間かかることなどから、ROSC後の診断には不適当であった。
②トロポニン&心電図
・TnIのカットオフ値を2.5ng/mLとして、ST上昇所見と組み合わせて使用すると、どちらも陰性であった時の陰性的中率は94%であった。
(Voicu et al. 2012)
・TnIのカットオフ値を4.66ng/mLとして、ST上昇所見と組み合わせて使用すると、どちらも陽性であった時の陽性的中率は86%であった。
(Dumas et al. 2012)
[早期CAG/PCIの有用性]
・RCTによる根拠に乏しく、早期介入の有用性/非有用性を示した観察研究がいくつも存在する。
・STEMIが疑われれば、可及的速やかに再灌流を得るべきであり、患者の昏睡や低体温療法の導入のためにそれが妨げられてはいけない。
・実際には、ACSが原因として疑われる全てのROSC後患者にCAGを考慮しても良く、下記のヨーロッパガイドラインが最新であり、参考とする。
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【9.ROSC後の薬物治療】
①ステロイド
・PCASの病態として、sepsis like syndromeが挙げられ、副腎機能の低下から相対的副腎不全に陥る可能性がある。
・ステロイドが有効である可能性については、院内心停止例を対象とした多施設RCTが存在する。院外心停止例にはそのまま適応できないと考えられる。
(Mentzelopoulos et al. JAMA 2013; 310: 270-9)
P:院内心停止症例
I:アドレナリン+バソプレシン+mPSL40mgによる蘇生処置
(さらにROSC後、必要時ヒドロコルチゾンを投与)
C:アドレナリン+NS(プラセボ)
O:
・ROSC率に有意差はなし
・ROSC時間は有意に短縮
・神経学的転帰良好での退院増加
・ショック例では人工呼吸器離脱期間が高値、腎障害も少ない。
・血圧は有意に高値
②リドカイン
・ROSC後のリドカイン投与によってshockable rhythm(除細動適応の心停止)再発予防という点でのみ有効性を示したエビデンスがある。ただし後ろ向きコホート研究。
(Kudenchuk et al. Resuscitation 2013; 84: 1512-8)
③強心薬
・DOBにより心筋障害を軽減させると言われているが、β刺激作用により心筋酸素需要を上昇させるとも言われている。
・いずれにせよエビデンスはない。
・PDE阻害薬の一種(Levesimendan)は心筋酸素需要を増加させないという利点を持つ。
④エリスロポエチン
・脳梗塞後の神経学的転帰改善作用があり、それに期待されてROSC後でも用いられた経緯がある
→しかし対症例対照研究にて転帰に有意差なし
→血栓症が増加した。
⑤抗凝固薬
・院外心停止の主要因である心筋梗塞および肺塞栓をターゲットとして投与され得る。
→多施設RCTによってt-PA投与の有効性が否定された
→頭蓋内出血はt-PAで有意の増加。
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【10.ROSC後のてんかん・ミオクローヌス管理】
[定義]
・てんかん
「脳における過剰または同期した異常ニューロン活動による一過性症候の発現」
・痙攣
「全身または局所の筋肉の不随意かつ発作的収縮を示す症候・症状名」であり疾患名ではない。低血糖などの代謝疾患も含む。
・てんかん重責
・「臨床的あるいは電気的転換活動が5分以上続く場合、あるいはてんかん活動が回復なく反復し、5分以上続く場合」
・さらに、てんかん重責は痙攣を伴うものとそうでないものの2種類に分けられる。
・ROSC後の予後不良徴候とされる
・ミオクローヌス
・「不随意運動の一種で突然の筋収縮により生じる体のぴくつき」を指す
・持続時間は短いが、てんかん発作の範疇に入るものもある。
・ROSC後の予後不良徴候とされる
[初期治療]
(参考:http://wfccn.org/wp-content/uploads/2018/02/Guidelines-for-the-Evaluation-and-Management-of-Status-Epilepticus.pdf)
(補足:SE→痙攣重責、ICP→頭蓋内圧亢進、AED→抗痙攣薬)
[けいれん薬投与の実際]
(参考:https://www.neurology-jp.org/guidelinem/epgl/tenkan_2018_08.pdf)
・ジアゼパムは無効であれば5分毎に合計20mgまで投与可能。
・静脈路がない場合には、筋注でなく注腸投与を行う
川良健二
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